介護に携わる人なら誰もが意識する「自立支援」。
むしろ意識せざるを得ないと言えるかもしれません。介護保険法の最初の項目、第一条にはその目的が規定されていますが、そこには高齢者が自立した日常生活が営めるよう支援する旨が記載されていて、その他の介護関係の資格テキストや講習でも「自立支援」という言葉は頻繁に目にし耳にします。
今回は、介護報酬改定に伴い、更に強化された「自立支援」について、お話ししたいと思います。
自立支援とは?
何らかの疾患により援助が必要な対象者が、その援助に頼らず身体的・精神的に自立できるように行う支援を「自立支援」と呼びます。
以前は対象者が抱える障害を乗り越えることを目指していましたが、WHO(世界保健機関)により障害に関する概念が革新されたため、活用されるべき残存機能にも着目されるようになりました。
また介護や障害者分野以外でも、引きこもりや生活保護受給者に対する経済的自立を目的とした自立支援=就労支援も含まれ、社会福祉分野全般に渡り行われている活動と言えます。
「自立」という言葉は、自分以外の力を要さず、他からの介入を受けずに1人で立つことに由来しています。このことから、自立支援とは他人の力を借りることであり、それは他人から干渉されることも含み、また力を貸す側の負担にもなり得ます。自分が自分らしく生きるために必要な「自立」に向けた支援は対象者のためであると同時に、際限ある社会資源を見極めた金看板でもあるのです。
自立支援を促進する改定
厚労省は2018年度の介護報酬改定として、全体で₊0.54%微増させる方針をまとめました。今回の改定には高齢者の自立支援と重度化防止の強化を後押しする仕掛けが随所に盛り込まれ、いかに高齢者福祉に係る財政逼迫が深刻であるかを示唆しています。
日中高齢者が通い、食事や入浴、生活機能訓練などを行って過ごすデイサービス。今回の改定で、実施された機能訓練の結果や効果を評価(アウトカム評価)し、その成績に対しての報酬を設けました。
また、他事業所のリハビリ専門職などと連携することにより得られる加算や機能訓練指導員の資格要件緩和など、デイサービスで行うリハビリに付加的に価値を見い出す取り組みも始まります。
特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護保険施設では、入所者がおむつなしで生活できるように行う支援に対し、新たに報酬を加えました。厚労省の調べによると、在宅復帰を妨げる要因として「入浴や排泄が自力で行えない」が高い割合を占めています。在宅ケアマネジャーでも在宅生活の継続が困難になるひとつの基準として、「自力排泄の可否」を示す人も少なくありません。
こうした回復実績に応じた「成功報酬」は、リハビリを目的としたサービスには以前より存在していましたが、介護自体が目的とされているサービスに付与されるのは、今回の報酬改定が初めてとなります。
まとめ
利用者のためにも社会のためにも、良いこと尽くめの自立支援。
自立支援に対する評価を見直したことにより、本質的な効果は期待できるのでしょうか。
前回の報酬改定ではデイサービスの報酬は減らされたため、経営面から考えると今回の自立支援に向けた加算は何としてでも獲得したいところ。施設においては医師がおむつを外せると判断し、また利用者本人がそれを望む場合に限り自立支援加算の対象とするとされていますが、加算を得るため自立を無理強いさせる可能性は否めません。
営利を目的とした活動では、その追求も事業の継続には不可欠であり、完全な公務で無い限り、報酬を意識するのは当然。自立に向けた取り組みには大義名分もあり、大いに推進したい新体制ではありますが、その成果を検証するには、慎重な姿勢が求められるのではないでしょうか。
ライタープロフィール
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介護福祉士、介護支援専門員。
小さな在宅系事業所で働いています。
介護に関わる全ての方々に、明るい未来を。