2007年に全国の高齢者(65歳以上)は人口の21%を超え、日本は超高齢者社会となりました。高齢者に係る医療費や介護給付費により国の財政は逼迫し、その費用削減が重要な課題として挙げられています。今回はその対象の1つとされる、訪問介護における「生活援助」の縮減施策についてお話ししたいと思います。
肥大する社会保障費
近年の日本は少子高齢化の一路を辿っていて、社会保障費は増え続けています。現在、日本は超高齢社会であると同時に、世界でもトップクラスの長寿大国。男女の平均寿命は約84歳(男性:80.98歳/女性:87.14歳)で、年金受給者の数が多いことを意味しています。かつては現役世代2~3人で1人の高齢者を支える「胴上げ型」でしたが、現在は2~3人で支える「騎馬戦型」、2050年には1人で1人を支える「肩車型」になると懸念されています。
昨年10月、財務省は2018年度の社会保障費は高齢化に伴い6,300億円増大すると見込んでいて、その用途を見直し5,000億円に止める方針を発表しました。さらに待機児童対策に要する費用500億円も捻出するべく、合計で1,800億円の歳出削減を検討しています。
社会保障費の削減対象
今年度の予算編成では、多くの医療分野が削減対象になるとされていて、医療機関が提供する医療サービスへの報酬(医療報酬)に焦点が当てられています。しかし、財務省が目指す診療報酬の引き下げには自民党の厚労族議員(厚生労働省に精通している議員)が反対しています。また、生活保護制度も見直す必要があるとされていて、自己負担がないために生じる頻回受診や過剰な投薬が問題視されています。
社会保障費の削減対象として、当然介護保険給付費にも関心が向けられています。その1つが、訪問介護で実施されているサービス「生活援助」です。「生活援助」とは在宅における訪問介護サービスで、利用者の身体に直接関らない介護(家事)「掃除・洗濯・調理・買物」などを行います。
ケアマネジャーに課される「縮減業」
以前より保険の対象となっていることに疑問符が付いていた「生活援助」。「生活援助」に係る介護給付費の減額や時間の短縮などの措置は既に何度も講じられていますが、今回はケアマネジャーに対し課される施策となっています。
ケアマネジャーは利用者が介護保険サービスを利用するにあたり、介護の計画書(ケアプラン)を作成します。今回の施策は、一定数を超える生活援助を導入する場合、ケアマネジャーに該当ケアプランを市町村に提出する義務を課すもの。市町村により課題が発見された場合は、ケアマネジャーに是正の指導をし、優れたケアプランの作成を目指すとされています。提出義務が生じる基準は4月に公表する予定で、本格的にスタートする10月に向けて準備を進めています。
まとめ
限りある財源の中で、その割り当て先を吟味することは、財政改革には必要不可欠です。確かに、寝たきり高齢者に係る介護は単なる家事と比べ、その緊急性や必要性が高い事は周知の事実であると言えます。しかしこの施策には、既に「生活援助」を利用している利用者から著しい不満の声が上がらないよう、徐々に介護保険のサービス枠を縮小するという「目論見」が見え隠れしています。
今回の施策には、ケアプランを提出するケアマネジャーやそれを検証する市町村の新報酬については言及されておらず、よって作業だけが増えることに疑問を持つケアマネジャーは、必要であっても「一定数以上の生活援助」を位置付けることを避けるかもしれません。「優れたケアプラン」と謳われながらもそれに対して価値が置かれることはなく、つまり職務を全うするケアマネジャーは一人歩きすることになります。
財政改革による歳出削減にも要する費用は発生し、それを加味した削減施策でなければ表面的で偏った効果しか得られないのではないでしょうか。良かれ悪しかれ過多な生活援助は減少し、同時にそれに関わる人々の職業意欲も低下することになるでしょう。
ライタープロフィール
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介護福祉士、介護支援専門員。
小さな在宅系事業所で働いています。
介護に関わる全ての方々に、明るい未来を。