身体に衰えを感じ始めてきた女性の例
85歳の幸子さん(仮名)は、10年ほど前に夫を亡くされて以来、子供もいないため、現在も独居生活を続けている女性です。もともと社交的だった彼女は、夫が存命中の頃から地域活動にも積極的に参加されており、交友関係も幅広い方でした。
ただ最近になり、一人での買い物や、特に重たい荷物を持って歩くことに困難さを感じ始め、何か手助けは得られないものかと、かかりつけ医に相談したところ介護保険を利用してヘルパーの利用や、デイサービスに行き身体を動かすことを勧められたことが、介護保険の利用のそもそものきっかけでした。
現在幸子さんは要支援2の認定と共に介護予防ケアマネジメントを受けています。当初ケアマネージャーが聞き取った幸子さんの生活に対する希望は次のようなものでした。
「一人で元気に買い物に行けるようになりたい」
「重たい買い物は誰かに手伝って欲しい」
「お風呂掃除を誰かにやって欲しい」
どのように目標を立てるべきか
前項に記載した幸子さんの想いは希望でありながら、自身の困り感を表明したものも含まれています。今回はその中でも「一人で元気に買い物に行けるようになりたい」」
という希望に着目してみたいと思います。
確かに「一人で元気に買い物に行けるようになりたい」と本人は言葉にしていますが、ケアプラン上の生活目標として位置付ける場合注意しなければならないのは、「元気」というフレーズは本人にとってどの時点の「元気な状態」と比較して言っているのか、ということです。元気という表現は前向きでもあり、見た目的にも綺麗なのですが、一方で抽象的でもあります。
仮に「再び買い物に行けるようになる」ことをケアマネジメントにおいて優先して解決すべき課題として設定するのであれば、
1) どのような手段を用いて買い物に行くのか
例えば杖や歩行器などの補助具を用いてでも「歩いて」いくのか。バスやタクシー等の移動手段を「用いて」そこまでいくのか。
ここで重要なのは、当人が「自らの足で目的の場所まで向かうことができる」を重要視しているのか。それよりも「目的の場所にて、自分の好きなものを、自分の目で見て、選び、買い物を行うことができる」を大切なことと考えているのか。はたまたその両方であるのか。しっかりと見極めていく必要があります。
2) 過去の状態と比較して、本人は当時のように買い物を行えるようになりたいのか
さすがに数十年前、20代や30代の頃のような「元気さ」を取り戻したいと言われてもそれは到底叶えることはできませんが、このような希望を掲げてくる方にとって取り戻したい姿は、大抵衰えを感じる以前の自分自身です。一方で、衰えた自分自身をしっかりと自覚し、受け入れている場合もありますので、今よりも少しだけ元気になれればそれで良しとする方も同様にいるため、どんな自分でありたいのかをしっかりと聞き取りアセスメントを行う必要があります。またどのような形であれ、今現在何が要因で「元気でない自分」に陥ってしまっているのか。その陥ってしまった要因をしっかりと分析し、現代における医療と介護においてその課題は解決が可能であるのか、ということも現実的な問題として考えていく必要があります。
3) 上記の内容を含めて、再び買い物に行けるようになるためには、はたしてどの程度の期間を要するのか
3ヶ月や6ヶ月、あるいは1年という「期間内」でどこまで到達を目指すかを考えていく必要があります。いきなり買い物に行けることを目指すのか、そうではなく買い物に必要な筋力を養うため、スーパーの途中まで歩いていけるようになるのか。課題はいくつもありますが、本人と合意形成を図りながら、まずは最終的な目標に対してどの地点までであれば現実的に目指すことができるのか、加えてそれが現実的に達成可能な生活目標である必要があります。
まとめ
生活目標は一つではありませんし、こうでなければならないというのもまたありません。ケアマネージャーの数だけ、生活目標の表現方法は変わるものですが、大切なのはそこに「本人の気持ちがしっかりと反映されているか」ということです。
今回の幸子さんの例については、参考として次のような生活目標を上げさせて頂きます。
★「自宅から〇〇スーパーまで歩いて買い物に出かけることができる」
★「歩行補助具を利用し、〇〇スーパーまで歩いて買い物に出かけることができる」
★「〇〇スーパーへの買いものは、行きは歩き、帰りはバスなどを利用し自宅まで帰ってくることができる」
★「〇〇スーパーに向かう際はバスなどを利用し、店内では歩いて品物を選び購入することができる」
まだまだ多くの目標が考えられますが、大切なのはあくまで本人らしさを忘れないということに他なりません。
ライタープロフィール
太郎丸
日本文学系大学卒業後、介護老人保健施設に介護士として就職。
介護士として3年目に「介護福祉士」を取得。
主に認知症介護に加え、口腔ケアや排泄ケアを専門に取り扱うようになる。
後、5年目に「介護支援専門員」を取得し、介護老人保健施設を退職。
退職後、有料老人ホームに介護支援専門員として再就職。
6年間常勤職員として、施設サービス計画書の作成の他、施設の運営等にも関わる。
有料老人ホーム退職後、主任介護支援専門員として地域包括支援センターに常勤職員として勤めるようになる。
現在、国が推し進める地域包括ケアシステムの構築のため、日夜邁進。