介護業界で働く男女の比率はおよそ2:8と言われていますが、訪問介護においてはさらにその差が大きく、
1:9と言われています。老人ホームなど施設系の介護現場では力仕事も多く、また一定の利用者数が確保できるため正規社員での雇用が目立ち、安定した収入に繋がることが見込めます。一方、訪問介護ではスポットでの雇用、つまり登録制の雇用が少なくなく、空いている時間を活用して働けるメリットがある反面、収入が変動する傾向にあるのです。今回は男性の介護職、特に訪問介護のヘルパーに焦点を絞り、お話ししたいと思います。
敬遠される男性ヘルパー
自宅に赴いてサービスを提供する訪問介護では、自宅に上がるという性質上、女性の方が安心できるという意見があります。また、掃除・洗濯といったサービスを行う場合、家事のスペシャリストである女性(主婦)が好まれます。その理由として、特に高齢者にとっては男性が家事を行うことに対して抵抗があり、女性のヘルパーを希望されることが多いのが現状です。また調理サービスでは料理ができない男性ヘルパーが多く、自ずと女性ヘルパー(主婦)に依頼するのが通常となっています。
訪問介護で体に係る介護を「身体介護」と言いますが、特に入浴介助で男性ヘルパーは敬遠されます。男性利用者で女性ヘルパーを拒否するケースはほとんどなく、反対に女性利用者は男性による入浴介助を当然嫌がります。ちなみに施設では職員不足や入浴介助に力が必要だという理由から、男性職員による入浴介助は珍しくありません。
評価が低い男性ヘルパー
また利用者が訪問介護を「家政婦」のように捉えている場合、男性ヘルパーが珍しがられるケースがあります。私がヘルパーとして働いている時、利用者から「男性にこんなこと(家事)をやってもらうのは気がひける」と言われたことがあります。本来、介護保険サービスにおける訪問介護では行うサービスは介護計画書に記載されている内容に限っているのですが、細かなことを追加で頼みにくいとのことでした。
「こんな仕事で生活できるの?」「家族は養っていけるの?」などと訊かれたこともあります。依然「介護=主婦の仕事≠賃金」という縮図が残存していて、家族による介護が当然であった時代の高齢者が持つ、介護の仕事自体を軽んじる風潮を否めません。これは男性ヘルパーに対してのみならず、実は女性が担って来た仕事も過小評価しているのです。
少ない雇用機会
私が訪問介護のサービス提供責任者(以下サ責)をしていた頃、何度か男性から求職の問い合わせを受けたことがあります。慢性的に人材が足りていないこの業界、人材雇用は最大の課題であり難題です。しかも電話口の男性は世間一般の常識を踏まえた口調で、話している内容も端的で明確、何よりフルタイムで目一杯働きたいとの要望でした。このような人材は多くなく、決して逃したくないチャンスでした。しかし結果は面接までも届かず、その電話でお断りすることになったのです。
その男性は施設で常勤として働いていたため、給料は安定していました。在宅介護に興味を持ち、訪問介護への転身を試みましたが、既にいくつかの訪問介護事業所から断られたとのことでした。理由はどこも同じで「男性ヘルパーへの仕事量の確保が見込めない」というものでした。
常勤ヘルパーとして雇用する以上、その勤務時間はできるだけ多くの仕事、つまり訪問介護サービスをこなし、直接売上を叩き出すことが責務となります。営業なりサ責なりが仕事を取って来ても、男性ヘルパーに振れる仕事が少ないということです。前項でも触れたように、訪問介護は男性であるがために依頼されないケースが非常に多いのです。その男性は以前のように安定した給与形態を望んでいましたので常勤を希望。仮に登録ヘルパーとして採用できたとしても、どの程度の給与水準を維持できるのかを心配していました。私も仕事量に関して確実な数字を提示できず、残念ながら採用には至りませんでした。
まとめ
「男女雇用機会均等法(1985年制定)」とは雇用において男女平等に機会を与え、また待遇を確保するための法律です。男女平等を謳っていながらも、実質的には女性差別を規制する法律として運用されています。しかし、その理念とは、性別に関わらず個々が持っている能力を最大限に発揮できる社会を目指しているのではないでしょうか。介護の仕事、特に現場の最前線で働く介護職員の仕事は人間の羞恥心や自尊心に直結するため、ジェンダーレスには後進的な分野であると言わざるを得ないでしょう。
ライタープロフィール
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介護福祉士、介護支援専門員。
小さな在宅系事業所で働いています。
介護に関わる全ての方々に、明るい未来を。