2000年の介護保険開始とともに、着実に事業所数を伸ばしていたデイサービス。高齢者に交流の場を与えると同時に、家族など介護者の負担軽減という意義を持つデイサービスは、施設と比べ設置コストも抑えられるため、税負担削減にも十分な効果が認められています。そんなデイサービスですが、2015年の介護報酬改定により、10%近くの報酬が削減されました。それを皮切りに減少しているデイサービスですが、このような境遇の中でも思考を凝らし、ユニークかつ大胆な運営をしている巨大施設があります。今回はまるでテーマパークのようなデイサービス、愛知県にある温泉付きのTデイサービスについて、お話ししたいと思います。
巨大規模デイサービス
介護保険のデイサービスは、1ヶ月あたりの利用者延べ人数が300人以下の小規模デイサービス、301~750人の通常規模デイサービス、751人以上の大規模デイサービスのように、受け入れ人数と人員体制によって4つの区分に分けられています。そのほとんどが1日あたりの利用者数が30人以下であるのに対し、Tデイサービスは1日あたり約250人が利用する、稀に見る超大型のデイサービスです。
介護福祉士や看護師を始めとする専門職を取り揃えた従業員の数も200人以上に上り、紛れもなく日本最大級のデイサービスと言えます。
多岐に渡るリハビリプログラム
Tデイサービスは非常に大きな規模を誇り、その特異性に沿った設備を整えているため、多彩なリハビリプログラムが用意されています。
まずはその名称にも使用されている「温泉」です。地下1,350mから汲み上げられた天然温泉には炭酸泉もあり、血管を拡張させ血液の循環を促す効果が期待できます。
リハビリプールも完備されていて、水泳インストラクターによる水中トレーニング、アクアマシーンによるリハビリ指導を受けることにより、足腰に負担が少なく機能訓練を行うことができます。
もちろんリハビリの専門職、理学療法士による機能訓練も実施していますが、特記すべきはプログラムとトレーニングマシンの数。広大なフロアーには22種類35台のマシーンが設置されていて、専門スタッフが個別に機能訓練プログラムが作成しています。
また利用者の満足度を示す指標として重要な食事ですが、Tデイサービスはバイキング形式にて提供されます。大規模ならではの形態ですが、自立した生活を促すためにも、高齢者が自分で選び取り分けるという作業は脳の活性化にも繋がります。さらにパン教室やおやつ教室も開催していて、利用者が参加することも可能です。
他にもカラオケや陶芸教室など250種類以上のプログラムがあり、介護予防を目的とした無料の体操教室なども開講しています。
レジャー性を高める施設内通貨
そして何と言っても注目したい特徴は、全ての関連事業所で導入した施設内通貨「シード」です。
シードはリハビリや手伝いを行うと稼ぐことができ、施設内の喫茶コーナーや売店などで利用することができます。また多額のシードを貯めるとお墓参りやショッピングなど、施設外へも連れて行ってもらえるという利用方法もあり、使い道に事欠かず、多くの選択肢があります。
人間の行動原理に基づいたこの取り組みは、自立支援への誘因を与えるという結果が出ています。例えば、介護者が髭を剃っていた利用者が、自分で髭剃りをするようになったなど。実行する意欲を掻き立て、目的を達成=欲求を満たし、次なる目的のために意欲を維持するというスパイラルは、社会における自己実現そのものです。「通貨」というツールには賛否両論あるようですが、むしろ現実的で親しみのある「通貨」だからこそ今までの経験が生き、身に染み付いた感覚が刺激されるのではないでしょうか。
まとめ
その巨大なる特性を上手に活用し、ひとつの社会を創り上げる事に成功したTデイサービス。昨今の日本は高齢者の増大にともない、住み慣れた地域での生活を後押しする「地域包括ケアシステム」の構築が目指されています。テーマパークのようなこのデイサービスには、社会機能の中に介護を組み込むヒントが、数多く散在しているのではないでしょうか。
ライタープロフィール
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介護福祉士、介護支援専門員。
小さな在宅系事業所で働いています。
介護に関わる全ての方々に、明るい未来を。