「もしもしオレだけど…」、この文言を自分の親に対しても、使用しなくなった方は多いのではないでしょうか。子供や孫になりすまし金銭を騙し取る「オレオレ詐欺」は、面識のない者を対面することなく騙す「特殊詐欺」に分類され、かつてよりその被害が報告されていましたが、21世紀になると世間の注目を集まるようになりました。今や年間の被害総額は400億円(H29年/警視庁発表)に届く勢いで、社会的問題として常に取沙汰されています。今回は年々巧妙化する「オレオレ詐欺」について、お話ししたいと思います。
弱みに付け込む「オレオレ詐欺」
注意喚起が盛んに行われるようになってから久しい「オレオレ詐欺」ですが、それでもなお騙されてしまうのはなぜでしょうか。その要因の1つに、電話という閉鎖的な手段によって、意図的に作り出される高齢者の「弱み」があります。通話内容の流れを例に、分析してみましょう。
1回目の電話
詐欺犯:「あなたは、老人ホームに入居する権利が当たった。」
「入居しないなら権利を買い取りたいので、申込名義を貸してもらえないか。」
被害者:「権利譲渡を受諾し、金銭を受け取ることを了承する。」
2回目の電話
詐欺犯:「名義貸しは違法であると公的機関から通達があった。」
「お金を振り込めば、解決する。」
そもそも「名義貸し」とは違法行為(6月以下の懲役又は100万円以下の罰金)であり、貸した側にも責任が問われます。ここでポイントなのは、後々弱みとなる違法行為を強制するのではなく、お願いベースで迫ってくるという点です。もちろん1回目の電話では、違法であることは明かしません。「老人ホームに入れなくて困っている人」の話を涙ながらに訴え、人助けだと思って名義貸しを受諾させられればしめたもの。後は録音した会話をネタに、2回目の電話へと移行するだけです。
このように「オレオレ詐欺」とは、真っ当に生きている人間の「弱み」を引っ張り出すところから始められるため、電話を受け取った時点から詐欺犯の手中に入り込んでいるのです。
還付金詐欺
こちらも最近よく聞く詐欺で、人間の小さな欲を触発する手口となっています。具体的な手順を追って見てみましょう。
詐欺犯:「(自治体や税務署の職員を装い)年金の未払いがあるので、受け取る手続きをして下さい。」
「還付手続きは本日までなので、急いで手続きを行ってください。」
「銀行窓口は混んでいるので、携帯電話を持ってATMへ行って下さい。」
「以前、未払いの旨を記載した封筒をお送りしたのですが、返信がなかったので電話しました」などと言い、信用させると同時に、自分に対しての感謝の気持ちを植え付けます。「本日中でなければ還付金が受け取れなくなる」という切迫した状況を作り、相手の焦りを十分に煽ります。それにより、ATM(もっとも受け取る側であればATMに行く必要もないのですが)でも正確な判断ができなくなり、詐欺犯の指示通り操作をし、「お振込」手続きに及ばせるという段取りです。
「振込み型」「手渡し型」「送付型」
「オレオレ詐欺」で真っ先に思いつくのが、子供を装い銀行口座へ金銭の振込みを要求する「振込み型」。最近では「オレオレ詐欺」の啓発活動も盛んなため、銀行や郵便局では窓口はもちろん、ATMを利用する際も職員が配慮を払っています。そのため、コンビニなど監視が手薄なATMに誘導させる手口が出てきているようです。
「オレ今手が離せないから」などと言い、被害者と面識のない者を派遣し金銭を渡させるのが従来の「手渡し型」です。最近では警察や金融機関を名乗り暗唱番号を聞き出した上で、キャッシュカードを受け取りに来る「キャッシュカード手渡し型」が横行しています。
金銭を郵送させるのが「送付型」と呼ばれる手口。やはり電話で誘導され、記載する荷物の品名も「金銭」と書かれないよう、無難なものを指定されます。
オリンピック詐欺
オリンピックのようなビックイベントに合わせ、流行する便乗型詐欺。オリンピックに関し、様々な切り口から投入される詐欺は、後を絶ちません。典型的な「オリンピック詐欺」の手口を見てみましょう。
・オリンピック関連企業の投資パンフレット(限定)が届いたら、投資権利を譲って欲しい。
・国際競技場の建設にあたり、建設会社が社債を発行するので買いませんか?
・オリンピック観戦について、国民抽選によりSS席が当たりました。
「東京五輪財団」や「○○建設の社債」など、架空・実名問わず、もっともらしい名称を挙げ、儲け話やチケット購買を持ちかけます。基本的には他の特殊詐欺と手口は同様ですが、「オリンピック」をキーワードに、より臨場感を演出します。
「騙されたふり作戦」を逆手に取る手口
「特殊詐欺」のとっかかりは電話でのやり取りですが、緊急性を訴え、金品の受け渡しを要求する場合があります。詐欺犯が一度だけ現れる現場で、警察としては何としても取り押さえたいところ。ところがその策を逆手に取る手口も、やはり研究されているようです。
詐欺犯:「○○警察です。あなた宛に詐欺犯から電話がかかってくるという情報を入手しました。」
「金銭を持って出てきたところを逮捕するので、訪問してきた詐欺犯に一度金銭を渡してください。」
もはやイタチごっこ。次から次へと新たな手口が開発されては対応策を講じ、さらに新たな手口へと発展するという、何とも虚しい連鎖が続いているのです。
まとめ
日本の総人口は1億2,000万人ほどで、そのうち高齢者(65歳以上)は約3,500万人。全人口のおよそ28%が高齢者であり、そのうちの17%ほどである600万人が、1人で暮らしていると言われています。この大きなマーケットをターゲットに、「オレオレ詐欺」は進化を続けています。また、テクノロジーの進歩により金銭の所有方式が多様化しているので、それに合わせ詐欺の手口も増えているのが現状です。しかし、最も重大な原因は、「犯罪」と常に密接な関係にある「貧困」ではないでしょうか。食うや食わずの状況でなくとも、将来が見えない日本では、精神的な「貧困」も蔓延しつつあります。貧困はさらなる貧困を引き起こし、その連鎖から直ちに脱出するには外部からの介入が必要であると言われています。「オレオレ詐欺」の根本を追求するならば、同時に日本が直面している「貧困」問題を無視することはできないではないでしょうか。
ライタープロフィール
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介護福祉士、介護支援専門員。
小さな在宅系事業所で働いています。
介護に関わる全ての方々に、明るい未来を。