ここ数年、高齢者による自動車運転の事故のニュースが後を絶たず、社会問題化しています。
高齢者に対し免許返納を促したり、免許更新の際に認知症のテストをしたりと、政府もいろいろ対策を練ってはいますが、なかなか上手く事はすすまないようです。
認知症でなくても、高齢者は判断能力や運動機能が落ちていますので、確かに運転技術が落ち、運転することの危険性を伴う方は少なくないでしょう。
しかしながら高齢者はそれをわかった上でも、それでも車を運転せざるを得ない事情があるのかもしれません。
この問題を介護保険や行政の現状とあわせて考えてみたいと思います。
介護保険は外出に対応していない
高齢になると足腰が弱り、歩いての外出や電車、バスの移動がつらくなる方が多いです。それでもある程度しっかりされている方や一人暮らしの方の、普段の買い物や病院、時には趣味の外出の送り迎えをしてくれる人がいない場合があります。
車の運転をまだされる高齢者は、介護保険を利用されていても要支援程度の、軽度の介助が必要なだけの方がほとんどなのですが、こういった方を病院や買い物に連れて行くサービスというのはありません。
通院介助はヘルパーでできるけれども、要支援の方は利用できません。
買い物同行はあるけれども、歩いてヘルパーと行く、もしくは車イスを利用して一緒に、しか認められておらず、歩いていける範囲にお店がなければ代行を頼むしかありません。そもそも嗜好品やペット用品などの買い物、趣味などのお店に行くことも現行の介護保険では不可能です。
自分でお店に行って食品やほしい物を選びたい場合、それこそ本屋で好きな本を買いたいなどの場合は介護保険は使えないので、自分で行くしかないのです。
そしてある程度の規模の都会であればともかく、地方ではまだまだ介護保険事業所の数が少なく、そういった場合は本当に生活に必要なサービスしか利用できないことも。そしてそういうところほど、車がないと目的地に行けないので、かなりな高齢になっても車を運転されています。
ソフト面とハード面の整備が鍵
もちろん行政も手をこまねいて看過しているわけではなく、さまざまな取り組みをしています。社協や地域包括支援センターで、高齢者向けの外出援助サービスを行い、車で目的地まで連れて行ってくれたり、それ以外のボランティア団体が外出支援をしていたり、公共交通機関が割安になるサービスがあったり…。
しかしながらこの手のサービスが、肝心の高齢者の間で周知徹底しているかというとそうでもないことが多く、ケアマネや民生委員がなどが付いていれば知らせたりできるのですが、結局知らないまま自動車の運転をするしかない方も多くいます。
それでも自分で運転することを選ぶ方もいるでしょうが、誰かが車で連れて行ってくれるサービスが、今よりもっと増えてもっと周知されれば、やはり無理して運転する人は減るのではないでしょうか。
ハード面は自動車の性能の問題です。ずいぶん進歩はしていますが、今以上に自動ブレーキの普及や、自動運転の開発を切に願います。ちなみに私の利用者さんも、この自動ブレーキでことなきを得たことがあるそうです。
これですべてが解決するわけではないけれども、安心して乗ることのできる車が一般的になれば、高齢者のみならず若い人の事故も減るわけですし、少しでも早く普及することを願っています。
まとめ
行きたいときに行きたいところへ自分の運転で行く。何十年もしてきた当たり前のことを、きっかけもなくやめることはそう簡単ではありません。それをやめることで生活に不便が出るならなおさらです。
高齢者が運転をして事故をすることはもちろんあってはならないことですが、だからといって運転を続ける高齢者を責めるだけでは何も事情は変わらないと思います。
介護保険含め、周囲の制度を整えて、誰もが安心して生活できる社会になればいいなと思います。
ライタープロフィール
ふうこん
老健、特養、デイ、ヘルパーを経て現在は居宅のケアマネをしています。
資格:ヘルパー2級、介護福祉士、認知症実践者研修、全身性ガイドヘルパー、介護支援専門員