「介護事業」というと、まずは「介護保険事業」を思い浮かべるでしょう。介護保険事業は介護保険法により、その事業内容は厳密に規定されています。今回は新しい形態での保険外サービス、「介護の新モデル事業」についてご紹介したいと思います。
※ローンチとは新しい商品やサービスを世の中に出すことを指します。
介護保険適用サービスと保険外サービス
現在、介護保険が適用となる訪問介護において、実施できるサービス内容は介護保険法により制約されています。例えば庭の掃除や年末の大掃除はその必要性が評価されず、犬の散歩や家族分の調理は利用者を対象としたサービスではないため禁止されています。
介護保険サービスを利用することは介護認定を受けた全国民が有する権利であり、その「公平性」を確保するため、サービス内容はある意味限定的となるのです。よって保険適用外サービスを受けるには介護保険サービスとの同時利用はできず、どちらか終了後に実施されることになります。
そこで東京都豊島区は、2018年度から介護の新モデル事業「混合介護」を開始することを発表しました。混合介護とは、介護保険サービスと保険適用外サービスとの同時提供を可能とするサービスです。これにより家族分の食事を利用者分と同時に調理できるようになり、ニーズに沿ったサービスを効率的に提供できる試みであると言えます。
また豊島区は混合介護の開始に伴い、付帯できる新サービスを検討しています。その中でも特に画期的なサービスが「ヘルパーの指名制」です。追加料金を支払うことにより、看護師や調理師など特殊技能を持ったヘルパーを指名できる制度です。公的なサービスでは成しえなかった「差別化」を盛り込むことにより、能力が収入増に繋がるという経済成長に欠かせないスキームが構築されるわけです。
規制外での新事業
東京都は前項の事業を、「国家戦略特別区域」として展開する事を念頭に置いています。国家戦略特別区域とは、安倍内閣による成長戦略の一環として指定された経済特区であり、規制緩和や税制優遇により民間企業の投資を活性化させる目的があります。この改革は小泉内閣が始めた「構造改革特別区域(2002年)」に端を発しています。
実態と合っていない国の規制は経済活動の促進を干渉しているとの見方から、「国家戦略特別区域」は新規に参入する企業により新しい事業を開始しやすく、それがモデル事業となって経済効果をもたらす事が期待されています。
高齢者の資産
1,800兆円ほどある日本の金融総資産の60%以上を高齢者が保有していると言われています。総務省が発表した家計調査報告(貯蓄・負債編)によると、全年齢平均「貯蓄:1,820万円/負債:507万円」に対し、70歳以上で「貯蓄:2,446万円/負債:90万円」となっています。少子高齢化が進むに連れ、資産を保有している年齢も上がっているのです。この潜在的な資産を効率的に運用するために、高齢者を対象にしたビジネス展開を試みる企業は少なくありません。しかし介護サービスを始め、高齢者に十分なサービスが提供されていないというのが現状です。
まとめ
高齢者にサービスが行き届かない要因は、人員不足に他なりません。その最大の理由は、給与水準に問題があると考えます。2000年にスタートした介護保険制度では、その収入の大部分(80~100%)は公的な財源より賄われるので売上の上限が限定され、収益が伸び悩むという結果を生んでいます。従って介護職員への給与は頭打ちとなり、人員不足や離職増へと繋がっているのです。
新しい事業である「混合介護」は、社会福祉活動としての「介護」から経済活動としての「ビジネス」へと変貌を遂げる起爆剤となりえるのではないでしょうか。「利用者は必要な介護を受けるために対価を支払い、事業者はサービス向上のための企業努力を惜しまない」という健全な仕組みです。
国の財政が逼迫し介護に公費が回らなくなりつつある今、私はこのモデル事業に「介護」の価値を見直すきっかけとなることを望んでいます。
ライタープロフィール
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介護福祉士、介護支援専門員。
小さな在宅系事業所で働いています。
介護に関わる全ての方々に、明るい未来を。