高齢者虐待の数は増加してきており、身体的な虐待、経済的虐待、ネグレクトなど様々な虐待があります。介護施設でも虐待はあり、私も実際に目の当たりにしたことがあります。
しかし、介護をしていく人間としては虐待に目を向けて、再発しないように防止、事前防止をしていく必要があります。
ここでは私がいた施設でおきた経済的虐待についてご紹介していきます。
経済的虐待がAさんを追いつめていた
Aさん(女性、70代)は頭はしっかりとしていましたが、下半身が弱っており車いすで生活をしていました。私は当時有料老人ホームで相談員として働いており、Aさんはそのホームで生活をしていました。
Aさんは身寄りが子供が一人だけであり、契約時に施設に来たきり一度も会いにきていませんでした。既に入居して3年以上が経過しています。Aさんがいうには月に数回電話をかけてくるだけで、顔も全然見ていないとのことでした。
ある日、事務の職員から「Aさんの口座にお金がないみたいで利用料の引き落としが出来ていなかった」と報告を受けました。そのことをAさんに確認しにいきました。
「Aさん、口座にお金が入っていなかったみたいですけど…」Aさんは下を向いて話そうとしません。表情も非常に険しくなっており手が震えていました。
私は何かあったと思い、Aさんを面談室までお連れしてゆっくりと話を聞くことにしました。
数か月前に子供が夜中に突然やってきて、「母さんは高齢者だからこれからは私が管理します」といって通帳と銀行印を持っていってしまった。
Aさんは子供がそういうのだから信頼して渡したそうです。しかし、実際はAさんの貯金も、Aさんの年金も口座から引き出されていました。
Aさんの子供に連絡をとって事情を話すと全く悪びれる様子もなく「お宅の施設にはうちの母親は合わない、もっと安いところに入れてやってくれ。生活保護でも入れる施設があるでしょう。探してください」といい一方的に話をされました。
Aさんは「あの子には、私がこの施設に入る前から介護をしてくれて申し訳なく思っている。私が悪かった、バチが当たった」と非常に落ち込んでしまいました。施設としては利用料を滞納している場合は退去をしてもらうことが基本ですが、今回の場合は経済的な虐待にあたるとして退去を見送りました。
しかし利用料は支払ってもらわないといけませんので、会社で契約をしている弁護士に相談をしました。
家族間の経済的な虐待は虐待に当たらない?
弁護士が言うには、家族間のお金のやり取りで経済的虐待だと判断するのは非常に難しいとのこと。Aさんが持っている財産を一度調べてみた方が良いとアドバイスを受けました。
Aさんに話を伺うと、数十年前に購入していた分譲マンションがあるそうで、それを売却することによって当面の生活費は確保できることが分かりました。
しかし、それでは数年もたたない内に底をついてしまいます。
私たちは検討に検討を重ねましたが、結果的に他の利用料金の安いところに移ってもらうことになりました。
Aさんは違う施設に移ることが分かると「本当に迷惑をかけてしまって申し訳なかった。子供とは縁を切っています」と涙ながらに話をされました。
まとめ
経済的な虐待はある意味、身体的な虐待よりもつらいものがあるかもしれません。特に親族同士の虐待は周りが気付きにくいですし、今回のAさんのように最後まで周りが気付かなかった例もあります。
有料老人ホームなど、ある程度の資産がある方は経済的な虐待が大きくなりやすく、予防策をきちんととっておくべきでした。後見人を利用したり、財産管理人を付けたりなど、第三者の目が必要だと感じました。
ライタープロフィール
Kokko0320
介護福祉士、ケアマネジャー、社会福祉士を取得しています。
介護についての情報や私の経験談など、現在介護をしている方はもちろん、これから介護を目指している方にわかりやすくご紹介していきます。