脳梗塞とは、脳の血管の一部が詰まってしまうことによって起こる病気です。今や脳梗塞の患者さんは117万9000人(厚生労働相「平成26年患者調査の概況」より)、介護が必要になる原因の第1位です。また、今までできていたことが病気により、介助が必要になったりできなくなってしまうとふさぎ込んでしまう方が多いです。今回は、脳梗塞を発症し、デイケアに通うことになった利用者さんとのお話を紹介します。
最初の印象
病気で身の回りのことが不自由になってしまったので、入浴などのサービスを受けたり、リハビリをしたい方、昼間家族の留守中1人でいるのが心配な方、お話相手が欲しい方。デイケアを利用する方の事情はいろいろあります。
70代のAさんもリハビリを受けたい、という理由でデイケアに通われていました。Aさんは脳梗塞になり、右の手足に麻痺が残ってしまったそうです。麻痺があるといっても、杖を使い何とか歩けていましたし、右手も動作は鈍く握力も少なかったですが、腕や指を動かすことはできていました。入院中のリハビリのおかげで着替えやトイレなどの身の回りのことは見守りが必要な場面はありましたが、おおかたご自分でできていました。ですがデイケア利用中は、何となくふさぎ込んでおり、他の利用者さんとはあまり関わろうとはしていませんでした。
もともと社交的で、お出かけが好きなAさん。脳梗塞になる前は、バリバリ仕事もしていたし、ご家族やお友達ともお出かけされていたそうです。それが、脳梗塞になってしまい、今までと同じように仕事もお出かけもできなくなってしまい、何となくふさぎ込んでしまっていたようです。
今までの経験を活かした新しい趣味を見つける
脳梗塞になる前、お友達やご家族といろいろな場所へお出かけをしていたAさん。お話を伺うと楽しそうにお話をしてくれますが、決まって最後は「もう、今までのようには出かけられないのかな」
とおっしゃいます。杖を使って歩くのは大変だし、一緒に行く人にも迷惑がかかると思っているようです。脳梗塞になる前と比べると、転倒のリスクや体が思うように動かない、といったことがあるので、Aさんの言いたいことは何となく分かります。
ある日、京都の金閣寺へいった時のことをAさんが話してくれました。私も学生時代に遊びに行ったことがあるので2人でお話をしていました。そうしたら、お話を聞いていたお隣の方も加わってみんなで大盛り上がりで、金閣寺の様子を私が紙に描くとAさんも一緒に描いてくれました。
普段は、右手で字を書くのも「大変だ」と言うAさんが、今回は何も言わず、絵を描いてくれています。みんなと一緒に今まで行ったことのある場所と思い出を描く、と言うことがAさんにとって楽しかったようです。
新しい趣味で元気になる
Aさんは元気だった頃に遊びに行った場所の写真を持ってきてくださり、絵を描くようになりました。最初は鉛筆で描いていた絵も、ハガキに絵を描き、メッセージを付けてくださるようになりました。描いた絵手紙も10枚を超えるようになる頃、
職員の提案でデイケア内に個展を開くことになりました。デイケアには、Aさんのように絵手紙を描いている方、習字が得意な方、パッチワークをされている方などがいらっしゃいます。
みなさんの作品を集め、デイケアの一角に個展を開催しました。デイケアの利用者様が見たり、ご家族が見にきてくださったり、職員が見たりと大盛況でした。
この個展がきっかけで、Aさんが他の利用者さんや職員とも話す姿をよく見かけるようになりました。
病気になってもお出かけはできる
絵手紙という新しい趣味に出会ったAさんは、以前に比べ、少し明るくなってきました。絵手紙を描くようになってから、右手をよく使うようになったようで、握力が少し増えたようです。リハビリの時以外にも、自主トレで歩く姿をよく見かけるようになりました。
理由を尋ねると、今まで出かけた場所はたくさん絵手紙で描いたから、今度は新しく出かけた場所を描いてみたい、と言うのです。奥さんと相談したら、近場なら行けるかもしれない、という話になり、転ばないように歩く練習をしているそうです。
脳梗塞になり、以前と同じことはもうできないと思っていたAさん。ですが、絵手紙という新しい趣味に出会い、ふさぎ込んでいた気持ちが少しづつ前向きになってきたようです。そして、以前と同じようにはいかないけれど、今のAさんに合ったご家族や友人とのお出かけを楽しんできてほしいな、と思います。
ライタープロフィール
Akiko
一人暮らしの祖母の通院・買い物、身の回りの簡単な介護を6年間していました。