今年4月14日、「産業革新機構が人工知能(AI)を活用し、ケアプランを作成提供する新会社設立する」と新聞各社で報じられた事は記憶に新しいことだと思います。ケアマネジャーの代わりにケアプラン作成を行うことにより、業務効率の向上や経費削減が一応の目的とされており、加えてケアマネジャーとの協働も謳われてはいますが、やはりその最終目的は「ケアマネジャー業務の基本をAIにすべて賄わせる」ということになるでしょう。
AI参入に関して、はたしてそれが「人道的」であるか、はたまた「倫理観」や「道徳観」はどのようにして考えていくのか、諸問題はいくつもあれども、単純にそれが作り上げるケアプランの有効性だけで捉えた時、非常に有効性が高いと考えられます。
ケアプランの在り方
ケアプラン作成においては、当事者のライフストーリーを紐解き、課題分析を行っていきます。その上で、自立支援もしくは共生支援が叶うように、それぞれの計画書を作り上げていくわけなのですが、問題視されるのが、個別性の見えてこない、金太郎飴のようなケアプランが未だ数多く存在するということなのです。
しかしこれだけでは問題の本質を捉えているとは言えないでしょう。十人十色、千差万別とも言いますが、確かに人それぞれ個別性はあるとはいえ、同じような境遇、同じような価値観や生活力を持った人も当然存在するでしょうし、当てはまる生活課題が共通する人も同様にいることだと思います。重要なのはケアプラン上の文言や目標設定がどうであるかではなく、第三者にも説明できる「根拠提示」があるかということではないでしょうか。言わばアセスメントにおいて、しっかりとした個別性が分析され、根拠と共に生活目標が提示できており、その上でケアプランの提供まで行えていれば、プラン上の文言や目標設定が例え一見金太郎飴のように見えたとしても問題とはならないでしょう。
AIが作るケアプランとは
ケアマネジャーが人である以上、その成長には時間と経験を要するのは当然であり、そこには人間ならではの失敗も含まれます。ところが、AIであればどうでしょうか。膨大の数なケアプラン事例を瞬時に習得し、いつでも引き出せるという圧倒的なパフォーマンスを秘めています。
厚生労働省より、平成28年度時点における全国の居宅介護支援事業者数は約4万カ所と発表されており、仮にこの内1%の事業所にAIが導入されただけでも400カ所。平成26年度に三菱総合研究所が発表した一事業所あたりのケアマネジャーの平均在籍人数は常勤非常勤合わせて3.1人となっており、更にケアマネジャー一人あたりの平均担当者数が36.2人と公表されています。つまり、全国400カ所に導入された「たった一つのAI」は、ケアプラン作成を最低でも年44,888回行うこととなるのです。この中には当然困難事例も含まれるでしょうし、年代、性別、疾患、趣味も嗜好もまったく違うものが一極集中してくるわけですから、AIの学習速度は人のそれとはまるで比較にはならない筈です。加えて、その学習結果をもとに次なるプランを立案していくこととなるのですから、これまで人が作成したものと比べてどこに遜色があると言えるのでしょうか。
まとめ
AIの参入が決定している以上、今後ケアマネジャーはどのように向き合い、どう利用者とAIとの間に入っていくかが求められてくる筈です。確かに、ケアマネジャーは対人援助職であり、利用者と直接対話しなければその人となりも分からないかもしれません。それは今の時点では例えAIであってもできないことです。しかしだからといって、対人援助そのものが今後も絶対に人でなければ行えないという根拠もありません。移り変わる介護の世界において、今後ケアマネジャーには何が求められるのでしょうか。一人一人考える時が今訪れているのかもしれません。
ライタープロフィール
太郎丸
日本文学系大学卒業後、介護老人保健施設に介護士として就職。
介護士として3年目に「介護福祉士」を取得。
主に認知症介護に加え、口腔ケアや排泄ケアを専門に取り扱うようになる。
後、5年目に「介護支援専門員」を取得し、介護老人保健施設を退職。
退職後、有料老人ホームに介護支援専門員として再就職。
6年間常勤職員として、施設サービス計画書の作成の他、施設の運営等にも関わる。
有料老人ホーム退職後、主任介護支援専門員として地域包括支援センターに常勤職員として勤めるようになる。
現在、国が推し進める地域包括ケアシステムの構築のため、日夜邁進。