介護人材の需要が非常に高まっている介護業界において、人材確保、人材育成は多くの福祉事業者が共通して直面している課題でもあります。せっかく介護の世界に足を踏み入れたものの、「習うよりも慣れろ」の指導姿勢だけでは、結局は当人の資質の問題に左右されるのみで真に課題解決には至りません。加えて今後更に介護の世界は専門職の質の向上が謳われているため、人材育成や指導は組織的なマネジメントが求められる時代となっているのです。
ではなぜ人材育成がそこまで重要視されるのでしょうか。先に述べたように専門職としてその能力を高めるためということもありますが、更に人材育成により優れた人材が定着することにより、「安定した事業運営」や「働きやすさと生きがいが増すことにより、働く職員の生活の安定が図れる」という目的もあるためです。
安定した職員の雇用は、利用者の方にとっては結果として安心感や満足感の上昇にも繋がりますし、強いてはサービスの質の向上にも結び付いていきます。介護保険制度における運営基準においても、「事業者は職員の質の向上のため、研修の機会を確保しなければならない」と規定されており、事業所は人材育成に対して積極的な取り組みを行わなければならないのです。
具体的な取り組み
以下に具体的な取り組みを解説していきます。
1. OJTとは?
事業所単位によって呼び名に差異はあるかもしれませんが、「OJT」という研修方法をご存知でしょうか。「OJT」は福祉業界のみで行われているものではなく、幅広く一般的な企業でも行われている研修、つまりは人材育成方法となります。
新人職員が新任以上の先輩職員に付き業務を通じて必要な知識や技術を習得していくことにより、職場内で求められている技術をそのまま習得できる点は大きなメリットとなります。他にも指導を通してコミュニケーションを図ることもできるため、新人職員にとっては職場内に早い段階で溶け込みやすくもなりますし、事業所からの観点では研修に必要なコストを抑えられるという経済的メリットも生まれます。
一方で、この育成方法は「指導者側の力量に左右される所が大きい」ために、「OJT」を行う際には一体誰が、どこで、いつまでに行い、何を目的とし、どのような効果が期待できるのかということを明確すると良いでしょう。
また「OJT」の効果は教わる方でだけでなく、教える方にとって振り返りの機会にも繋がりますので、必ずしもベテランの職員が指導役に付くことが正解ではありません。敢えて新任職員に任せることで、「自身が新人だった頃こんな風に教わりたかった。だからこの点に注意して教えてあげよう」と新人と同時に新任の成長を促す効果が期待できるためです。
OJTの特徴まとめ
・「OJT」とは新人職員が同じ職場の先輩職員に付き業務を通じて必要な知識や技術を習得していくこと。
・新人職員が職場内で求められている技術をそのまま習得することできる。
・先輩職員とコミュケーションが図れるので早めに打ち解けることができる。
・教える先輩職員にとっても振り返る機会になる。
・研修費用の削減ができる(施設側のメリット)。
・指導者側の力量に左右されるため、しっかりとした準備が必要。
2. OFF-JTとは?
人材育成は「OJT」のように直接的に教わるものだけでは当然ありません。内部で行われる勉強会や研修、外部で開催されている研修への参加等を通じて人材育成を図る「OFF-JT」という方法があります。
特に介護の業界では区域や市域、民間企業などでも様々な研修を外部に向けて開催していますし、他にも職業ごとの連絡会等でも企画している場合も多く見受けられます。「OFF-JT」の最大のメリットは、研修目的が最初から提示されているために受講する側にとっても目的を明確にしやすいということです。「今、自分はある特定の分野の知識や技術をもっと深めたいので、その分野に特化した研修を受けたい」という自身の目的に応じた研修を見つけ受ける事ができるために、自己の成長にも繋がります。更には人脈を拡げる機会と同時に視野の拡大にも繋がるのです。
OFF-JTの特徴まとめ
・「OFF-JT」とは内部で行われる勉強会や研修、外部で開催されている研修への参加等を通じて人材育成を図ること。
・研修目的がはっきりしているので、目的別に受講することできる。
・外部開催のものは人脈を広げるチャンスでもある。
3. SDSとは?
セルフディベロップメントシステムを略し、「SDS」と呼びますがこれも人材育成に関わる上での方法論となります。人に教わる事や、研修の場に参加する事に加え、やはり自己啓発による知識や技術の習得効果は何よりも高いものです。
「SDS」は自己啓発を援助する仕組みを指します。外部研修の参加や、資格取得、教材の購入等には費用負担が少なからず生じてくるものですが、こういった自己啓発に繋がるものに対して援助を行うことにより、より積極的に自己啓発に励んでもらいたい、ということが「SDS」の最終的な狙いとなります。
事業所によって差異はあるかもしれませんが、今後のスキルアップのため必要な経費や時間や場所といった問題があり思うように踏み出せないでいる人も、まずは一度事業として援助する仕組みの有無を確認してみることをお勧め致します。
SDSの特徴まとめ
・自分で進んで勉強しようとする人を応援する制度のことを「SDS(日本語では、自己啓発援助制度)」と言う。
・「研修参加費免除」「勉強スペースの確保」など事業所ごとに制度が異なるため、確認が必要。
まとめ
人材育成は先行投資です。今すぐ効果は望めなくとも、それが職員、利用者、事業所へと還元され、良いサービスを生み出し、それがまた次なる循環を生み出すきっかけともなるため、今いる事業所がどのような人材育成論を持っているのか、あるいはこれから職務に就こうとしている事業所が人材育成に対しどのような考えと実施方法を取っているのか、ぜひ一度確認してみて下さい。
ライタープロフィール
太郎丸
日本文学系大学卒業後、介護老人保健施設に介護士として就職。
介護士として3年目に「介護福祉士」を取得。
主に認知症介護に加え、口腔ケアや排泄ケアを専門に取り扱うようになる。
後、5年目に「介護支援専門員」を取得し、介護老人保健施設を退職。
退職後、有料老人ホームに介護支援専門員として再就職。
6年間常勤職員として、施設サービス計画書の作成の他、施設の運営等にも関わる。
有料老人ホーム退職後、主任介護支援専門員として地域包括支援センターに常勤職員として勤めるようになる。
現在、国が推し進める地域包括ケアシステムの構築のため、日夜邁進。