福祉精神、無償の奉仕活動。
介護の世界も人間的な優しさ、思いやり、心遣いを基本に成り立っているのですが、昨今の時代背景を考慮すると最早それだけでは成り立たなくなっています。理由としては、増加する高齢者数に対して、専門職である介護職の数が釣り合っていないことや、膨れ上がる介護給付費問題等、更に複雑な社会背景も絡んでいるのですが、まずは分かりやすい範囲でこの2点に着目してみます。
常々介護職の担い手不足が謳われていますが、実際には膨れ上がる高齢者数に対して、追いついていないというのが実情となります。言わば需要と供給のバランスの問題です。
介護給付費問題は高齢者数の増加がある以上、当然要介護認定者数や実際の利用者数も増えていくため、それに準ずるように介護給付費も膨れ上がるといった具合となります。
この2点だけでも、介護の世界を支える物理的な基盤が揺らいでいることが分かると思います。基盤が揺らいでいる以上、制度の他に、現場で働く人方も少しだけ視線の先を変えていく必要があります。つまりは介護への考え方を変えなければならない、ということです。
どのようにこれからを考えるのか
冒頭に述べたように、福祉の世界では人としての在り方、すなわち心を成しているものが第一に問われますし、対人援助である以上今後も時代背景がどう移り変わろうが、その根底部分は変わらないものだと思います。
しかし、時代背景が変わる中、その部分に上乗せする形で我々は自らも変わっていかなければなりません。国は今利用者自身も変わるような取り組みがされています。
・健康寿命を延ばそうとする取り組み
・介護予防活動への参加の促し
・その他総合事業への取り組み
などが挙げられます。
これらの取り組みに共通する事は利用者の自立支援促進なのです。国の考え方要約するのであれば「如何にして、介護保険を利用せずに暮らしてもらえるか」「如何にして自分の力、あるいは隣近所の力を借りながらでも自宅での生活を続けてもらえるか」ということです。
介護業界で働く私たちができること
確かに介護保険は、介護の必要な人のための保険です。しかし、財源問題や担い手問題だけを考えてみても、もはやその言葉だけでは片づけられない状況へと変化を遂げてしまっているのです。こうした状況は実際に現場で働く我々も理解する必要があります。国の舵取りの方向が決まっている以上、本当にそうなってしまってから合わせて動いていたのでは遅すぎるためです。時代の動く速度と先々を見据えながら、介護の業界も働く方々も考え方と動き方を変化させなければ、対応は困難を極めていくばかりでしょう。
そこで我々に求められているのと同時に、自らを変えていくために何を行えばいいのでしょうか。それは専門性を高めていくこととなります。専門性は単に人としての成長や技術的な事だけを指しているのではありません。時代背景や国の政策等をしっかりと理解把握し、通知文章からその先まで読み取れるようになる必要があります。専門職がその専門性をいかんなく発揮できるようになるためには、今何が必要であり、何を求められているのかという事を理解できるようにならなければなりません。
まとめ
介護職というのは当人に寄り添い、求められている事を探りながら、人としての幸せの実現のため行うものだと私は考えます。しかし、時代が変わる中、介護はまさに一つのサービスであり、一つの商品提供となんら変わらないようになっています。更には、その商品を必要としていう方の手元に必要分だけ渡せるようにという、言わばサービス業、ビジネスとしての側面がより強く前面に出てきているのは、あるいは仕方がない事なのかもしれません。
介護の世界に思い入れが強ければ強い程戸惑いもあるかもしれません。しかし、どこかで転換を迎えなければ介護が人の手より、生まれ与えられるという事もなくなってしまうかもしれません。それが当たり前の時代が到来する事こそあまりにも無情な気がしませんか?
ライタープロフィール
太郎丸
日本文学系大学卒業後、介護老人保健施設に介護士として就職。
介護士として3年目に「介護福祉士」を取得。
主に認知症介護に加え、口腔ケアや排泄ケアを専門に取り扱うようになる。
後、5年目に「介護支援専門員」を取得し、介護老人保健施設を退職。
退職後、有料老人ホームに介護支援専門員として再就職。
6年間常勤職員として、施設サービス計画書の作成の他、施設の運営等にも関わる。
有料老人ホーム退職後、主任介護支援専門員として地域包括支援センターに常勤職員として勤めるようになる。
現在、国が推し進める地域包括ケアシステムの構築のため、日夜邁進。