介護の仕事を長くやっていると印象深い利用者に出会うことがあります。私が介護の仕事を始めて間もない頃に出会った、印象深い利用者についてご紹介します。
最初の出会い
私が介護の仕事を初めて半年ほど経った頃に一人の利用者様が入居してきました。私が働いていた施設は特別養護老人ホームであり、基本的には入居は利用者や家族の希望で入りますが、その方は役所からの措置で入所された方でした。
措置で入所するケースとしてはその多くが虐待です。虐待をされたり介護放棄をされたりしており、生命の危険があった場合に役所が保護をする目的で措置入所されます。
その利用者はAさんと言います。最初に会ったときは車いすに乗っており、色黒であり、下を向いていました。それ以上に印象的であったのは不自然な帽子をかぶっていたということです。しかしそれは帽子ではなく、フケが固まってそれが何層にも重なったものでした。
何か月も数年も頭を洗っていなかったのでしょう。私はAさんの最初の入浴を担当しました。色黒だと思っていた肌は垢で黒くなっており、体を洗うお湯がみるみる黒くなっていきました。頭のフケはふやかしながら櫛を使ってフケを取りました。
浴槽に入ったAさんは「私みたいな者がこんな気持ちいいお風呂に入れるなんて、夢みたいです」と言ったことは今でもはっきりと覚えています。
壮絶なAさんの在宅生活
後にAさんの担当になった私は、当時の生活相談員からなぜ施設に入所になったのかの経緯について聞きました。
Aさんは虐待を受けていました。夫と娘の3人で暮らしていましたが、夫は認知症、主な介護者は娘であり、夫の介護疲れによりAさんの介護は一切できない状態でした。日に日に娘は身体的にも精神的にも限界にきて、Aさんの介護を放棄し、Aさんは自宅外にある倉庫で過ごすようになりました。
娘は朝、昼、晩と食事を持ってくるだけで、それ以外は一切介護をしない状態が半年以上続いたようです。Aさんは自分で移動することができない体でしたので、一人で出ることが出来ず、ずっと倉庫で暮らしていました。
近所の人がその状況を発見し、市に通報。その流れでAさんは保護されることになりました。
涙を流して喜んでくれた
私はそんなAさんの入所までの生活を聞かされていたので、まずは心のケアをするように心がけました。恐らくAさんは身体的な虐待を受けていたのでしょう。おむつ交換などで体を触ると極端に体をこわばらせて恐怖感を感じていました。
信頼関係を作ることが第一だと考えたのです。コミュニケーションを図りながら、時間をかけて対応をしていきました。
ある日Aさんは「本当に感謝しています。ありがとう」と涙を流していました。実の娘から虐待を受けていたことや、夫が認知症になったこと、自分のせいで娘が警察のお世話になってしまったことなどを話してくれました。そして現在自分が優しい介護職の方に丁寧に対応してもらっていることにとても感謝しているというのです。私はその言葉を聞いて、心のケアをしっかりとしてきて良かったと思いました。
家族との再会
最終的には娘とは再会することはありませんでしたが、夫とは会えることができました。夫は認知症でAさんのことを認識できていませんでしたが、夫と会ったAさんは「ごめんなさい」と何度も何度も謝っていました。
Aさんは今まで自分が介護を出来なかった悔しさもあったと思います。何度も何度も繰り返し、「ごめんね」を言われていました。
まとめ
介護の仕事をしていると印象的な利用者様に出会いますが、Aさんほど心を動かされた利用者はいません。Aさんが今まで受けてきたことや、心情を考えるとこれからは幸せに生活を送って欲しいと心から願っています。
ライタープロフィール
Kokko0320
介護福祉士、ケアマネジャー、社会福祉士を取得しています。介護についての情報や私の経験談など、現在介護をしている方はもちろん、これから介護を目指している方にわかりやすくご紹介していきます。